開発の波にのまれる？ 60年たつ衣類の卸し街

プラトゥーナームの交差点。正面が立ち退きを迫られている地区。後ろにアマリホテル。右奥にバイヨクタワー

立ち退き場所に掲げられた看板には「なぜ、我々に尋ねてくれないのか？なぜ、我々に開発の相談をしてくれないのか？」とある

プラトゥーナームの交差点から、ゴチャゴチャした通りを歩く。店と店の間にある細道。それを入っていくと、両側にぎっしりと店が並んでいる。筆者は20年ほど前に、このあたりを足繁く通った。卸しのＴシャツ屋さんを探しに、安くでぬってくれる縫製屋さんを探しに。その面影はまだ残っている。ムンムンと暑いなか、汗がしたたり落ちながら歩いたのを覚えている。中華街のサンペン通りの感じだろうか。でも、それほど開放的ではなく、迷路のような道が続く。その迷路を突っ切るとバイヨクの方までたどりつくのだ。

　細い迷路をたどって歩くと、中にはシャッターが閉まっているところも目立ち、昔のような隆盛な感じではない。見切りをつけて出ていった人もいるのだろう。

　今、このあたりに再開発の波が押し寄せている。この辺の敷地は王室財産管理局が所有しており、テナントに対して今年12月17日までに立ち退くよう、通達があった。開発会社のＳＰＣプロパティー社が借り受け、プラティナムのファッションモールを建設するためだ。
　古びて排気ガスを浴びて黒ずんだ建物に、横断幕が掲げられている。「契約終了は正当ではない。やり方は正しくない。ここのマーケットは60年以上たっている。なぜ、住民に尋ねてくれないのか？なぜ、我々に開発の話を持って来てくれないのか？我々はここで生まれ育った。これからも闘っていく！」「国王様、私たち住民をここに住まわせてくださいませ。営業をさせてくださいませ」

　今回、立ち退きの対象になっているのは、７ライほどの土地で約700店ほど。40年以上、ここに住んで事業を営んでいる人たちも多いが、同局との賃貸契約は期日が明示されていないため、同局が契約を終了といえば、それで終わり。今年12月17日までに立ち退くよう通達を出したというわけだ。

　今回、ペッブリー通り沿いの一区画当たりの立ち退き料は110～120万バーツといわれ、通りから中に入ると100万バーツにも満たないという。代替地としてペッブリーのソイ25‐27を同局では提案しているが「プラトゥーナームのような活気はない」と、その代替地には満足できないよう。

　まわりを見渡せば、まず、プラティナム・ファッションモールがこのあたりの拠点になっている。ここの成功が大きい。それまでこのあたりはどちらかと言えば衣類の卸し街だったが、このモールができて一般の人が買い物でどっと押し寄せ、その横には同じくプラティナム・ファッションモール３がオープンし、この２つがこのあたりのランドマーク的存在になっている。

　同モールでは空きが出てもテナントですぐ埋まる状態で、地下のいまいち、人通りがないところでも一区画で３５０００～５５０００バーツの家賃。貼り紙を出せばすぐ借り手が見つかる状態だ。

　通りをはさんで向かいにある、住民の反発がある敷地で、３棟目として建設されれば、さらに活気が出ることが予想される。通りを渡った、いまいち活気のないパラディアムにも人の波が押し寄せることも期待できるだろう。このパラディアムは、地下にシルバー屋さんなども多く、日本人オーナーの店も結構ある。どちらかというと、イチゲンさんというよりもなじみの顧客向け、という店が多そうだ。

　一方、少し歩いたところには「シブヤ19」というモールがオープンし、こじんまりした感じで好感度も高いが、ここまで歩くのは少々おっくうだろう。

　衣類の卸売り街といえば、バイヨクからインドラホテルのあたりまでも広がっており、プラトゥーナームといえば、このあたり全体をイメージする人も多いだろう。その中で交差点からインドラホテルまでのゴチャゴチャした風景が印象的でもある。

　そして、すぐ先にはエアポートリンクのラチャプラロップ駅があり、ここまでのゴチャゴチャしたところの再開発が進めば、プラトゥーナームのイメージも変わってくるだろう。

　また、プラティナム・ファッションモール３の上にはノボテルホテルがオープンしており、このあたりからセントラルワールドに向かうのは少々、足場がたいへんだ。夕方になると、イサーン料理の屋台が軒を並べ、意外とおいしいと地元っ子の評判になっている。

　ところで、最近はこのように再開発によって40～50年たった長屋風の建物が壊され、コンドミニアムやモールなどが建設されるケースが至るところで見られる。時代の流れというとそれまでだが、あの細い道を一歩、踏み入れると懐かしい気持ちになり、店主同士の会話やその子どもたちの生活も垣間見れて、人の息吹きを感じることができる。古いものを壊して新しいものをつくるのは簡単だろうが、古いものをできるだけ生かす形で再生するのも、すばらしいことだと思う。自分の中では、プラトゥーナームということばと同義だったゴチャゴチャした風景が、この先いつまで残っていてくれるのだろうか。