タイで増える日本人求職者

インラック政権が、選挙公約に掲げていたタイの最低賃金の引き上げが、この４月から実施される予定。

　バンコク首都圏では、１日215バーツから300バーツという、40％近い上げ幅で、大卒の初任給は、１万バーツちょっとから大幅にアップする見通し。

　10年前は、20バーツだったクイティアオが、今は30バーツという物価の推移を考慮すると、妥当な賃金引き上げとも言えるが、人件費が上がれば、生産コストがあがり、結果的に物価も上昇する。長い目で見ると、今回の最低賃金引き上げが、タイ人にとって、手放しで喜べるというものでもなさそうだ。

日系企業や飲食店などへの負担も懸念される。

　この様に、物価も労働賃金も上昇しているタイだが、一方で、タイ現地採用で働く日本人の給料は、ここ数年あまり変化がみられない。

　日本人が働く最低給料も６年前までは、６万バーツであったが、それが５万バーツに下がっている。このように給与額は増えていない一方、タイで就職、求職活動する日本人は、継続的に増加している。

　タイにおける日本人求職者の傾向を、バンコクに拠点を置く日本人人材紹介大手数社に聞いてみたところ、

いずれの会社でも、日本から直接の問い合わせが、以前と比べだいぶ増えているとのこと。特に新卒とシニアからの問い合わせが目立つそうだ。

　新しい傾向としては、タイでの就職活動は、あくまで選択の一つという新卒も増えたこと。

　どうしても海外での就職が希望とか、タイが好きで働きたいというのではなく、タイでの就職活動は、日本で仕事につけなかった時の保険、シンガポールやベトナムでも良いという事だ。

　この傾向は、就職氷河期と言われて久しい日本の状況によるもので、世界各国の景気後退、円高、震災の影響などで、しばらく続きそうだ。

　タイでの就職活動が、受験の滑り止めの様な後ろ向きな求職者も増える一方、物価の安いタイでは、贅沢をしなければ、タイ人並みの待遇の給与でも、そこそこ充実した、日本より良い生活が出来るのではないかという希望を抱きタイでの就職を希望する人も増えている。この様な求職者は、働き盛りにも多く、今後更に増えると思われる。

　給料が安くても、人が来るという事が、タイ現地採用の給料が、あまり変わっていない一番の理由であろう。

　60代以上の日本人の長期滞在者も、継続的に増えているが、リタイヤしてタイでロングステイをする人の中にも、タイで再び就職を希望する人が増えている。　日々あまりすることがないとか、生活に目的や刺激が欲しいなど、金銭的なものより精神的な理由で、再就職を目指す人が多い。

　本紙自由ランドの求人でも、例えば「ずっと豊田市の近くの製造業一筋でやってきたが、定年退職し、昔から国語が好きだったため、こういう紙面作りにトライしてみたい」などというものだ。

その場合は「一筋でやって来られたものから、新しい仕事に変わるのは無理があると思います。申し訳ございませんが・・・」と断るケースが多い。

　この様なシニア層は、求職の一番の目的が、経済的なものでないので、給与額へのこだわりは、それ程強くない。日本での勤務時より、かなり低くなるタイ人待遇の給与でも、構わないという人が多い。生きがいの方に、より価値を置いた求職者だ。

　人材派遣会社を通してのシニアへの求人は、自動車、電気部品などの、製造業の専門技術職が多いが、日本での職歴とはまったく違う飲食業やフリーペーパーなどのメディア系など、新しい職種に挑戦したいというロングステイ者も多い。

　ここ数年あまり変化のないタイの現地採用日本人の給料だが、額にはかなり幅がある。10万バーツを超える求人もあるが、３万バーツ台で働いている日本人も少なくない。

結局は、その人が技術を持っているかどうかで決まるものだが、平均するとタイでは、５万から６万バーツというところが多いのだろう。

　今後、急速にタイ人の賃金が上がり、現地採用で働く日本人の給与額が伸び悩むと、そう遠くない将来、両者にあまり差がないという事になる可能性もある。

　今後も、タイで就職、求職活動する日本人が増えれば増えるほど、タイ人と現地採用の日本人との経済力の差を、縮めて行く事になるのだろうか。　